会社を定年退職したら保険証はどうする?どれを選べば安心?医療事務が考えてみた  

生活

会社を退職したら今の保険証は返還しなければなりません。

健康リスクも増える退職後、保険証を選ぶとしたらどれがいいのでしょうか?

収入が減る定年退職後、家計に優しく安心して医療を受けられる保険証はどれか。

医療事務を18年以上続けてきた筆者が、保険証の特徴と選び方のポイントをご紹介します。

定年退職した後の保険証 選択肢は4つ

退職後に選べる保険証は以下の4種類。

社会保険3種類と国民健康保険です。

  • 社会保険
    • 任意継続保険(任継)
    • 特例退職者健康保険(特退)
    • 家族の扶養に入る
  • 国民健康保険

健康保険の種類は、社会保険と国民健康保険の大きくふたつに分けられます。

社会保険には大企業などが運営する健康保険組合、中小企業が合同で運営する協会けんぽ、公務員が加入する共済組合などがあります。

現役時代は職場の健康保険に加入していた方も、定年退職した後に選べる保険証は限られてきます。

そして、4種類の保険証には以下のようなメリット、デメリットがあります。

それでは詳しく見ていきましょう。

任意継続保険(任継)

退職後も、期間限定で退職前と同じ健康保険に加入できる制度です。

私たち医療事務の間では「任継」と呼んでいます。

加入期間は2年間のみ。

2年経ったら、他の保険に移らなくてはなりません。

納める保険料

また、納める保険料は現役時代の2倍になります。

現役時代は保険料を会社と折半していましたが、退職すると全額自己負担となるためです。

保険料の基準となるのは退職時の標準月額報酬。

金額は2年間変わりません。

保険料には上限がある場合も

では、退職時に収入が高い場合は、高額な保険料を2年間払い続けなければならないのでしょうか?

実は保険料には上限を設けている組織もあります

例えば協会けんぽの場合。

標準月額報酬が30万円を超える場合は、30万円を上限として計算するという規定があります。

つまり、収入が30万円以上でも、30万円に減額して計算してくれるのです。

加入する組織によって違いがありますが、収入が減る退職後、上限が決まっていると助かりますね。

任意継続保険のメリット

任意継続保険は、基本現役時代と同じサービスが受けられます。

本人と家族が共に加入でき、家族の保険料は無料です。

高額療養費制度、付加給付制度1がある場合はそちらも変わりなく使えます。

任意継続保険のデメリット

一番のデメリットは加入できる期間が2年間と限定的なこと。

そして、保険料が現役時代の2倍になることです。

特例退職者保険(特退)

特例退職者保険制度は、一部の健康保険組合が自社の退職者向けに用意している制度です。

限られた人しか利用できませんが、現役時代とほぼ同じサービスが受けられます。

そのため、退職者にとっては大きな安心材料になります。

医療事務の間では「特退」と呼ばれてるこの制度、厚生労働省では以下のように定義しています。

〇健康保険組合のうち一定の要件を満たすものは、厚生労働大臣の認可を受けて、健康保険組合の被保険者であった退職者に対し、退職後も引き続き現役被保険者と同様の保険給付及び保健事業を行うことができる「特定健康保険組合」となることができる。

○ 特定健康保険組合制度は、昭和59年度に退職者医療制度が創設されたことに併せて創設された。

引用: 厚生労働省 第84回社会保障審議会医療保険部会

この制度を設けている健保組合は61組合。

主に、大企業の健保組合に限られています。

納める保険料

保険料は組合によって違いますが、1か月概ね2万円から3万円程です。

現役世代の年収によって、保険料が変わる組合もあります。

家族も加入でき、家族の分は無料です。

特例退職者保険のメリット

特例退職者保険の大きなメリットは、以下の2点です。

  • 現役世代とほぼ同じサービスを受けられること
  • 75歳まで加入できること

サービスの中で特に注目したいのは付加給付です。

付加給付とは、1か月の医療費が健保組合の規定額以上になった場合、残りの自己負担分は健保組合が補助する制度。

例えばある電機メーカーの場合、自己負担額が\25,000を超えると、残りは健保組合負担となります。

つまり、自分は1か月に\25,000以上支払わなくて良いということ。

健康に不安が出てくる世代にとって、付加給付は家計の味方。

家族も加入している場合は、同じ給付が受けられることがあります。

組織によって違いますので確認してみましょう。

特例退職者保険のデメリット

特例退職者保険は、加入条件が非常に厳しくなっています。

たいていの場合、企業に20年以上勤務した人、40歳以降入社であれば10年以上勤務した人が対象です。

つまり、特例退職者保険の制度を持つ企業で、長く勤務した人でないと加入できません。

また、加入のもうひとつの条件として、老齢厚生年金を受給していることがあげられます。

早期退職などで老齢厚生年金の受給がまだの場合は、開始まで待たないと加入できません。

家族の扶養に入る

年収が130万円以下で、家族が社会保険に加入しているのであれば、扶養に入ることができます。

私の周りでも、親を扶養に入れている人はたくさんいます。

歳をとって年収が下がったのなら、家族、主に子供の扶養に入ることは恥ずかしいことではありません。

保険料

保険料は無料になります。

親を扶養に入れたからといって、子供の負担が増えるわけではありません。

扶養のメリット

子供の入っている保険のサービスを受けられます。

付加給付があれば、そちらも受けられることもあります。

扶養のデメリット

扶養に入る場合、被保険者本人の同意と、保険組織で年収などの審査を受ける必要があります。

また、プライドが傷つく人もいます。

長年自分で生活を支えてきた人は、子供や家族の扶養に入ることが受け入れられない場合も。

家族との話し合いや、納得が必要ですね。

国民健康保険

市町村などの役所で申し込みができる健康保険です。

主に自営業者や退職者などが加入しています。

保険料

前年の年収と家族の人数によって決まり、各市町村によって違います。

保険料の計算式は、所得割+均等割+後期高齢者支援分+介護給費金=年間の保険料。

一般に社会保険より高い傾向にあります。

国民健康保険のメリット

誰でも入れます。

国民健康保険のデメリット

保険料が社会保険よりも高いと言われます。

社会保険の場合、保険料は事業主との折半でので、在職中は本来の保険料の半分で済みます。

ですが、国民健康保険の場合は全額自分で負担することになりますので、当然保険料は高くなります。

加入している家族が多いと、保険料も高くなります。

また、付加給付もないので病院での支払いは、限度額いっぱいまで自分で払わなくてはなりません。

保険料を実際に計算してみた

ここで、保険料をシュミレーションしてみましょう。

保険料は各組織によって違いますが、ここでは大手メーカーを参考にしてみました。

例として夫婦2人の場合を見てみましょう。

夫婦2人 妻はパート収入のみの場合

夫60歳で退職。退職時の月収40万円。前年の年収600万円。

妻59歳、パート収入70万円。

社会保険参考例は大手メーカー。

国民健康保険は自分の住んでいる地域(関東)が参考例です。

保険の種類保険料月額(介護保険料含む)家族分
退職前18,500円
任意継続保険43,500円
国民健康保険57,900円7,267円
退職時の保険料比較

明らかに、国民健康保険が高いですね。

また、任意継続保険を選んだ場合は2年間同じ金額を払い続けなければなりません。

そのため、年収が大きく下がると負担になります。

収入に応じて退職1年目は任意継続保険、2年目は国民健康保険に切り替えることも可能です。

夫婦2人 65歳時点退職での保険料

では、先の夫が65歳に到達した場合はどうでしょうか?

夫は再雇用で前年の年収が330万円に下がり、妻は変わらず70万円で計算してみました。

保険の種類保険料月額(介護保険料含む)家族分
退職前8,140円
任意継続保険19,140円
国民健康保険26,700円3,500円
特例退職者保険24,360円
65歳時点での保険料比較

保険料は組織によって違いますのであくまでも一例です。

夫が65歳に到達し、厚生年金を受給し始めると特例退職者保険に加入することができます。

ですが、この例では退職時点では任意継続保険が一番安くなっていますね。

加入の健保組合に付加給付制度があれば、任意継続保険でも利用できます。

では、もう少し年齢を重ねて70歳になったらどうでしょう?

夫婦2人 年金暮らし70歳の場合

年金暮らしとなると年収も下がるので、国民健康保険の保険料も下がっていきます。

夫が70歳に到達し、夫婦2人で年金暮らしの場合の保険料を比べてみました。

夫70歳、年金収入240万円。妻69歳、パート収入0円で計算。

この時点では、任意継続保険は加入期間を過ぎているので、下の2種類のみで比べしました。

保険の種類保険料月額(介護保険料含む)家族分
特例退職者保険24,360円
国民健康保険25,100円3,800円
70歳時点での保険料比較

特例退職者保険と国民健康保険、保険料はほぼ変わらなくなりましたね。

ですが、これは一例です。

特例退職者保険の保険料は組織によって違いますし、国民健康保険の保険料も地域によって違います。

同じ条件で東京都大田区で国保のシュミレーションしたところ、保険料は29,796 円となりました。

自分の支払い上限額を知っておく

退職後の保険証を選ぶ際、知っておいて欲しいのが支払い上限額です。

健康保険では、病院にかかった際、それぞれ所得に応じて月々の支払いに上限額が設けられています。

これを知っておくと、保険証が選びやすくなります。

自分の上限額を知る方法

上限額は保険証には書いてありません。

確認するにはマイナンバーカードを使います。

まずはマイナポータルアプリをダウンロードして、自分のマイナカードを読み取ります。

「健康保険証」の欄をタップして画面を下にスクロール。

すると「限度額適用認定証関連の情報」が表示されます。

さらに適用区分を見ると、「ア、イ、ウ、エ、オ」という表示がありますね。

それを下の表に当てはめて下さい。

ご自身にの上限額が分かります。

対象者自己負担限度額
区分ア  (年収約1160万円以上)252,600円+(医療費ー842,000円)X1%
区分イ  (年収約770万円~1160万円)167,400円+(医療費ー558,000円)X1%
区分ウ  (年収約370万円~770万円)80,100円+(医療費ー267,000円)X1%
区分エ  (年収370万円以下)57,600円
区分オ  (住民税非課税)35,400円
年収による医療費自己負担上限額

実際にはもう少し細かい規定がありますが、ここではざっくりした表にしました。

70歳以下の場合は、上の上限額が医療機関ごと、医科・歯科別、入院・外来別で適用されます。

上限額と保険料をセットで考える

退職後の保険証を考える時、保険料だけでなく上限額もセットで考えておくと良いでしょう。

協会けんぽや国民健康保険の場合は、上記の限度額が容赦なく適用されます。

年収600万円の人が入院して医療費が100万円かかったとすると、医療費の自己負担はひと月87,430円。

しかも、さらに入院中の食費、差額ベッド代、自費清算の雑費などがかかります。

入院、外来は別計算ですので、外来での事前検査やアフターフォローはまた別途かかります。

ですが、在職中の保険組合に付加給付がある場合は、保険組合がかなりの額を負担してくれます。

そういった場合は、保険料だけで考えずに任意継続保険を選んだ方がお得かもしれません。

また、特例退職者保険では、付加給付が付くことが多いのでその点も考慮に入れましょう。

残念ながら付加給付が望めない場合は、民間の保険で備えておくと安心です。

まとめ

ここまで、退職後の保険証について考えてきましたがいかがでしたでしょうか。

退職後に選べる保険証は以下の4種類。

  • 任意継続保険
  • 特例退職者保険
  • 国民健康保険
  • 家族の扶養に入る

また、選ぶポイントは以下の2点です。

  • 毎月の保険料
  • 付加給付

退職後は健康リスクも増えてきます。

いざという時のために、民間の保険にも入っておくと安心ですね。

また、70歳を過ぎると保険料も自己負担上限額も変わりますので、年齢に合わせて見直していきましょう。

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